頭皮の状態は薄毛に影響するということは以前から言われてきました。中でも頭皮の皮脂腺の中に皮脂が多くなると血流を低下させて、毛髪の生育を妨げるということで、これは自毛植毛手術で移植した毛髪でも同じことが起こりえます。そのケアとして頭皮マッサージ、スカルプ(頭皮)ケアなどへの関心が高まっています。
AGAの頭皮の状態を確認
頭皮の皮脂については、これまでにも複数の研究機関で行われてきましたが、大正製薬から注目に値する研究発表がありました。それは明治薬科大学との共同で、男性型脱毛症のAGA患者の頭皮の皮脂成分と薄毛の関係について研究した成果で、AGA患者の頭皮にはトリグリセリド、アクネ菌、マラセチア菌が多く存在することを発見したというものです。
その結果から、頭皮ケアに何をすればよいかを判断しようということです。
頭皮に多い原因成分
トリグリセリド(triglyceride)は中性脂肪のことで、よく知られているのは血液中の中性脂肪です。中性脂肪は動物性の食品に含まれている脂肪のことで、脂肪の最小単位の脂肪酸が3個つながった形をしています。グリセリドという脂肪が結びつけているので、ギリシャ語で3を表すトリ(tri)と組み合わせ、トリグリセリドと名付けられました。
これを和訳したのが中性脂肪で、酸性とアルカリ性の強さを表すpHの中性とは関係がありません。
肉を多く食べると血液がドロドロになると言われるのは、粘度が高い中性脂肪が多くなった結果ですが、頭皮の奥には毛細血管が多く張り巡らされていて、中性脂肪が多くなると血流が低下するだけでなく、毛細血管を通して頭皮に運ばれる中性脂肪の量も増えていきます。
この中性脂肪が皮脂の元となり、皮脂腺を詰まらせる原因となることから、血液中の中性脂肪の状態には気をつけたいものです。
アクネ菌は皮脂が多いところで生息している細菌で、ニキビの原因とされている皮膚に多くある細菌です。マラセチア菌は皮膚の炎症やアトピー性皮膚炎に原因になったり、状態を悪化させる真菌です。真菌というのは核を持つ微生物のことで、人間の細胞とも同じ形ですが、一般にはカビ菌のことを指しています。
遺伝以外のAGAの要因
頭皮の皮脂腺の皮脂の詰まりは脂肪が増えるだけでなく、細菌のアクネ菌や真菌のマラセチア菌が増えることによって起こっていくのですが、アクネ菌とマラセチア菌は皮脂を栄養源としているので、皮脂を取り除く皮脂ケアが重要な薄毛対策となっています。
この皮脂とアクネ菌、マラセチア菌との関係を見ていく前に、AGA(Androgenetic Alopecia)について再確認をしておくと、思春期から始まって、徐々に進行していく男性型脱毛症です。通常のヘアサイクルでは成長期、退行期、休止期を一定の間隔で繰り返していますが、AGAになると成長期が短くなって、休止期が長くなります。
休止期の毛包(毛を産生する毛母細胞を包んでいる部分)が増えることによって、頭頂部の毛髪が軟化して、細く、短くなっていきます。その結果として毛髪が頭皮から見えにくくなっていきます。
日本人のAGAの発症率は全体では30%ほどとされていますが、年代別に見ると20代で約10%、30代で約20%、40代で約30%、50代以降では40%を超えるとされていて、加齢とともに進んでいくことが明らかにされています。
AGAは遺伝的な要因が大きいとされていますが、細菌では遺伝以外の要因も注目されるようになっています。遺伝以外であれば自分の工夫と努力によって、AGAの度合いを抑えることもできるということです。
AGAでは原因成分が半分以上
大正製薬が遺伝以外の要因として着目したのは頭皮環境で、AGA群(55人)と非AGA群(63人)に分けて、日本人男性118人の頭皮の皮脂、細菌、真菌を分析しています。その結果、皮脂ではトリグリセリドの割合がAGA群は非AGA群よりも多いことが確認されました。トリグリセリドは非AGA群でも多いのですが、AGA群では半分ほどにもなっていました。
アクネ菌はAGA群では複数の細菌の中では半分以上になり、マラセチア菌はAGA群では複数の真菌の60%を超えていました。
このことから、トリグリセリド、アクネ菌、マラセチア菌の量がAGAに影響を与えていることが明らかになり、AGA対策としての頭皮ケアには、これらを減らすことが有効であることもわかってきました。
この方法だけでAGA対策は大丈夫ということではなくて、遺伝も関係していることから、対策をしても結果が伴わないということもあります。有効な薄毛対策であるとされる自毛植毛は健康な状態の毛髪を移植するものですが、その毛髪を健康な状態にしておくためにも気になる頭頂部などだけでなく、全体的な頭皮ケアはしておいたほうがよいのは確かなことです。
AGAに粘度の高い皮脂成分が多いことを確認
https://www.taisho.co.jp/company/news/2022/20220111000884.html